ビンディング == 安全はあなたの足元から ==

ワールドホープ 高橋 通

 スキーにおいて使用される用具は、スキー板、ブーツ、ポール、ビンディング、その他がありますがその中で安全に最も関与している用具はビンディングといえます。
 現在では、ビンディングはセフティ(安全)の代名詞にすらなっていますが、歴史的にはまだ新しいものです。現在の様になったのは1970年代、つまりまだ20年と経っていません。セフティという言葉が使われるようになったのは、1960年代に入ってからです。それまでいわゆるカンダーハーが主流でした。
 然し、カンダーハーにも改良が加えられ一応解放装置が付くようになりましたが、その後はLDRという締具が登場しスキーサイドをはしるワイヤーがなくなり、靴先前方の着脱装置(フロントスロー)はワンタッチ(後ろを上げる)になっていきました。よくホープマーカーと親しまれた締具です。又キリーで有名なルックネバダもその頃です。
 1960年後半になると、ステップインと呼ばれた締具が一般に出まわるようになりましたが、それが現代のステップイン締具と形態がほぼ同じです。形態が同じようでも、性能面では現在のとでは遥に遅れていました。この頃には、チロリア、サロモンが台頭してきました。ヨーロッパにおいて戦後レジャースポーツとしてのいわゆるアルペンスキーが急速に盛んになり、スキー人口も急速に増えはじめました。日本も少し遅れて増えていきました。
 それと同時に増えたものがスキー傷害でありました。
 スキー傷害には、捻挫、骨折、切挫創、脱臼等がありますが、セフティと呼ばれる締具が登場したにもかかわらず傷害が増える。これらの傷害をなくすことは出来ないだろうかとヨーロッパの Ernst Asang (エルンスト・アザンク)医学博士、Anselm Vogel(アンゼルム・フォーゲル)物理博士のニ人によって、問題提起され組織的な研究をはじめました。なぜセーフィティビンディングが普及しているのにかかわらず、傷害が増えてしまったのか、傷害例においてなんと締具の65%は機能を発揮していなかったというデータが出て来ました。同様にスキー場で調査した結果も同じでありました。
 これらの締具は誤って強く調節され過ぎていたということです。恐らく適性な調節をすると解放し易かったのでしょう。その後締具の弾性工程、いわゆるエラス理論が出来てくるので、後にビンディングの性能における重大な要素となるのです。
 1967年、Hans Schwartze(ハンス・シュバルツェ)(ヨーロッパスポーツという雑誌の編集長)の提案によって、IAS(国際スキー安全研究会議)という組織が発足しました。この組織には、先の二人をはじめ科学者、スポーツジャーナリスト、スポーツ用品店の専門家が入っています。ちょうど同じ頃、前後してスイス、アメリカでも研究され始められています。スキー傷害を減らす為に正しい調節の信頼基準の方法は足の脛骨頭幅に応じたものにしました。
 そうして1972年締具の基準が発表されたのでした。
 現在はDIN(ドイツエ業規格)、ISO(国際規格)が幅広く使われていますが、徐々にISOに統一されつつあります。日本でも1985年、製品安全協会によって認定基準(SGマーク)がつくられました。現在の締具は、エラス、復元力、拘束性、エネルギーといった様々な角度から安全な締具へと研究開発が進み高水準の技術力により、高いレベルの締具(ビンディグ)が普及しています。

はじめに
 スキーの安全を問うとき、ゲレンデの安全対策、スキー技術による安全対策と色々とあります。然し一つだけ忘れがちな重要なものがあります。足元のそれ、ビンディングです。
 ビンディングは昔の金具とは程遠く、安全を保障してくれるセフティーなものです。昔と違って現代のスキーヤーは幸せです。ただし正しくセットされていることが条件です。誤ったセットは昔の金具とスキー靴より危険であり一転して不幸なものになってしまいます。昔と違って現在のブーツは、ガチガチに硬く、スキー板もワックスの力をかりずとも、ものすごく滑る、ウエアーも暖かくなったが転べば良く滑る。そんな中でビンディングの基本性能とは何か、正しくセットするには何がポイントなのか、あらためて勉強してみましょう。

ビンディングの性能要素(図1,2)

[復元力]
 いったん解放方向に動いたスキー靴が完全解放に到達せず、締具のばね作用によって元へ戻る復元運動の際、スキー靴に作用する力。単位は解放力と同じで、解放力に対する復元力の比(%)でそれを表すこともある(たとえばトウピースの靴先解放力20kgfの時に復元力が8Lfならば、復元力比は40%)。復元力が小さいと、各種の摩擦が生じた際、たちまちスキー靴が元に戻らなくなってしまい誤解放の原因となるため、それはスキー靴運動の全行程に亘ってできるだけ大きいことが望ましい。
 実際の締具(トウピース)でその能力を確かめるためにはスキー靴を締具内にセットして正しく各種の調節をしたあと、靴先を10〜15mm横に押してみる。手を靴先から離した時に力強く早く戻るなら復元力は大きく、弱々しく遅い時は微弱である。

[弾性行程]
 俗に「エラス」の長さといわれるもので、正しくは「エラスチシティー」(英)「エラスチツィテート」(独)に相当します。図1
解放テストデータ 靴先または靴かかとでの「復元力」と密接な関係があり、一般には復元力の大きなものほど弾性行程も大きく滑走中のスキー靴への衝撃を吸収して、つねにそれを正常位置へ保持します。しかしここで注意すべきは、単に弾性行程の大きさだけでは締具の誤解放への抵抗能力、つまり衝撃吸収力は決定できないことです。これはその大きさは通常スキーヤーの体重なしの状態で測定されたものが表現されるため、復元力の乏しいものでは体重が作用するとたちまちそれが大幅に減ってしまうことがあるからです。すなわち「エラス」は十分な復元力の裏付けなしにはほとんど意味がないのです。

[エネルギー]
 弾性行程における荷重と、行程の積分で示します。
 ビンディングの衝撃吸収力で一般にエネルギー(kg、mm)で示します。このエネルギーが小さいと解放しやすく大きいと解放しにくくなります。
 同じDIN目盛りのインジケーター数値でも各メーカーのモデルのちがいで、このエネルギーが大きく違いビンディングの性能の重要な要素です。したがってこのエネルギー値が大きなもの程、衝撃吸収が良いと言えます。

[復元エネルギー]図2
 その名の通り復元する行程でのエネルギーです。このエネルギーが大きい程ビンディング復元力が良いと言えますが、復元力そのものも大きくないと意味がなさなくなります。

[拘束性]
 一般に立ち上がりと言いますが、ビンディングが作動し始める原点より調節されたインジケーター目盛りに出来るだけ早く到達し得るのが拘束性が良いとされます。
 然しそれのみだけではなく、やはりエネルギー値が重要になります。その場合ビンディングがある一定作動した行程を想定しそのエネルギー値を計算します。例えば3mm作動した時は何kg、何mmか? 6mmではどうかと言うようにです。

スキー締具専門用語

 スキー締具の世界ではいろいろと特殊な専門用語が使われており、初めての方には分かりにくいものが多いと思います。
 また同じ内容の部品、技術概念が各社ごとに異なった言葉で表現されているため、しかも有名ブランドの説明といえども必ずしも正しくないものがあるため、しばしば流通業者とスキーヤーに誤解を与え、混乱を招いていることがあります。
 そこで各社の説明書、マニュアルでの用語を参照しつつ、締具に関する重要な言葉をできるだけ日本語を中心に解説してみましょう。

各部分の呼び方

[締具]
 正しくは「締め具」と書くべきですが使われる頻度が高く誤読の恐れもないため、ここでは送り仮名を省略します。
 外国語では「バインディング」(英)、または「ビンディング」(独)ですが、業界筋では昔からの「金具」(かなぐ)あるいは「ビンディング」と呼んでいますが、スキー雑誌では「バインディング」が多く使われています。

[靴先締具]
 スキー靴の靴先用締具で、一般に「トウピース」(英)と呼ばれ、通常はスキー板平面に平行に左右の横方向への解放機能を有しています。脚部への危険なねじり荷重に対しては、特にこのトウピースの性能が重要です。

[靴かかと締具]
 スキー靴のかかと用締具で、一般に「ヒールピース」(英)と呼ばれ、通常はスキー板平面に垂直上方向への解放機能を持ち、またスキー靴の着脱操作機能も分担します。

[トウプレート]
 スキー靴靴先から約4cm後方の平滑な靴底裏面領域を支えるトウピースの付属部分。一般的にはポリ四ふっ化エチレン樹脂(PTFE、有名商品名「テフロン」)製のシートが貼付される。PTFEは非常に摩擦係数が小さく滑り易いが、軟らかいため傷つき易く、汚れによって摩擦が急増する欠点があります。
 なお「トウプレート」は和製英語で、これに対する英語としては「グライディングプレート一またはAFD(アンチフリクションデバイス)があることから理解されるように、その目的は最も危険な前方ねじり転倒にさいして靴先をスムースに横方向へ解放させると共に、危険でない衝撃吸収後はそれを迅速にスキー板中心へ復帰(センタリング)させることにあります。

[スキーブレーキ]
 「スキーストッパー」と呼ばれたことも有りますが、締具の解放時に即座にスキーをストップさせるのでなく、危険な暴走を抑制し減速させるための用具であるため、最近は「ブレーキ」が一般に用いられています。
 現在は一般にヒールピースの前部分にそれと一緒にスキーへ取り付けられているものと、ビルトインタイプ(内蔵式)があります。

[靴先ホルダー]
 別名トウカップまたはウイング。
 靴先を横への力に対して保持する部品で、左右分離型と一体型がある。また靴先(俗称コバ)を上への力に対して保持するものを特に「コバ押さえ」または「トウクリッパー」ということがあり、実際にはこれらがいろいろと組合わされて使われています。
 脚部に過大なねじり作用が生ずると、トウピース内のばねがたわみながら靴先ホルダーが開いてスキー靴を解放します。

[靴かかとホルダー]
 別名「かかと受け(押さえ)」、または「ヒールカップ(クリッパー)」。
 スキーヤーの前傾荷重時に生ずる上方の力に対してスキー靴かかとを保持する部品をいいます。
 かつては靴かかとの高さに合わせて上下調節が必要でしたが、最近は締具性能の進歩と靴底寸法の規格統一化によって調節不要式がほとんどです。

[解放レバー]
 スキー靴をスキーヤー自身の意志により締具の拘束から解放するための部品。
 従来はスキーポール先端で押して操作する形式が一般的でしたが、最近はスキー板やスキー靴を踏み下ろす形式が増えており、そのほか上方に引き上げるのもあります。
 「リリースレバー」または「オープニングレバー」ともいわれますが、特に初中級者モデルでは楽に操作できることが重要条件です。

[前圧調節]
 スキー靴靴底をトウピースに対して前方へ押し付ける力(前圧)を調節する部分で、特にトウピースの性能上、正しく目盛りに合わせることが重要です。
 これは靴サイズ合わせを兼ねていて、スキー靴が変わった時は必ず再確認の必要があります。
 前圧調節の方法は、実際にはスキー靴をその都度はずして行う「かみ合わせギザ」式と、スキーをセットしたままでも行える「ねじ」式とがありますが、いずれの場合もスキー靴が正しくセットされた時初めて前圧目盛りの合致が確認され、靴がセットされていない時や前圧が弱すぎる時は目盛り線が全く移動せず、逆にそれが強すぎる時は、目盛り線が「行き過ぎ」状態になります。
 実際のスキーイングに際して、前圧が弱すぎるとスキーの上方への「逆たわみ」の時靴底は「すっぽぬけ」易くなり、また強すぎると靴底での摩擦が一般に高まるため、解放力が調節値より高くなり危険が増し、又復元力が小さくなり誤解放の原因になります。いずれにせよ安全性をそこなうことが多い。
 トウピースと重要なバランス調節です。

[靴先高さ調節ねじ]
 トウピースには普通、靴先の高さ(厚さ)に合わせて「靴先ホルダー」を上下調節するねじ部分があります。
 「押さえ」という名のために、昔からその部分は上から強く押さえられる傾向がありますが、これは非常に危険です。
 靴底裏面とトウプレートの間の摩擦が高まって、前圧が強すぎる時と同様にビンディング機能に支障をきたし安全をそこなう恐れが高まるからです。
 したがってスキー靴靴先を上にもち上げた時には、靴底裏面とトウプレートの間に1mm程度のすき間があることが必要です。

[解放(強度)調節ねじ]
 トウピースとヒールピースのスキー靴を、そのスキーヤーに適した強さで解放させるための重要な部分です。
 ねじを回転させると、その近くにある解放強度表示のためのインディケーター目盛りが移動します。目盛りに並んで示される数字は、現在万国共通に使用されているDIN(西ドイツ工業規格)に基づいており、DIN目盛り値と解放モーメントの関係は、たとえばトウピースの4番の時は、所定の靴底長さに対して4kgfmのモーメントで解放すべきことが定められています。ただしこの場合注意すべきは、実際のスキー靴の解放強度は一般には靴底の材質や表面状況によってかなり変化し、特に軟らかな材質のスキー靴では硬いものよりも20〜30%解放モーメントが高まり、汚れた靴底では50%以上も高まることがあるということです。
 したがって実際のスキーイングでも正しくスキー靴が解放されるためには、一般にはできるだけ硬くて低い摩擦係数のスキー靴を選んでいつもきれいな状態に保つことが大切です。
 DIN目盛り値は、一般に1から3程度の調節範囲を持つものが子供用、2から6程度までのものが中人ないし女性用、3から9程度までのものが一般成人用、10を超えるものは競技者用とされているため、目的に合ったものを選ぶことが必要です。
 解放強度の各スキーヤーに適した値(DIN)の決めかたは、現在ISO(国際標準化機構)規格によって下腿脛骨頭直径および体重に準拠する2つの方法が定められていますが、どちらの場合も年齢、滑走速度と技量、靴底長さによって補正を行い、また体重法の場合には身長をも考慮することが必要とされています(身長cm-100=標準体重、実際体重がオーバーした場合は、標準体重値を用いて決める)

スキービンディング標準解放調表
(ISO規格による)

締具の力学量

[解放力]
 締具からのスキー靴の解放運動の際、スキー靴(靴先または靴かかと部分で)に作用する力。単位はkgf(重量キログラム)またはN(ニュートン)が用いられ、靴先では横方向、靴かかとでは上方向へ測定される。

[解放モーメント]
 締具からのスキー靴の解放運動の際、スキー靴に作用するモーメント。
単位はkgfmまたはNmで解放モーメントkgfm=解放力kgf×(靴底長m-0.03)の関係がある。DIN規格では、1から10までの定められた調節数に対して特定の靴底長さが指定されており、とくにトウピースの場合はその長さの靴底を用いて脚部にねじりを加えた際、その調節数相当のモーメントで解放すべきことが定められている。たとえば「4番」に調節されたトウピースは靴底長さが約30cmの時4kgfmのモーメントで解放するのが正しい。

 ※kgfmは重力単位係、Nは国際単位係(SI)でIN=0.102kgfの関係がある。モーメントには、ねじりモーメントと曲げモーメントがあり、前者は工学用語で「トルク」ともいう。


標準解放調表


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